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2017年7月25日 (火)

藤田和日郎「黒博物館 スプリンガルド」

毎日ツイッターを覗いていると、面識あるなし関係なく、有名無名を問わず、多くの絵師によるお作が流れてくるのです。
その状況を当たり前に感じていましたが、よく考えると凄いことかも。
だってこのお作の中には、後の世に、フェルメールだのミロだのダリだのみたいに、歴史的な価値を有する物も、きっとあると確信するのです。

それで藤田和日郎さんの漫画、「黒博物館 スプリンガルド」の絵が、門外漢ですが、なんか凄いな、と。
漫画って子供の頃からあって有り難みを忘れていたけど、藤田さんも歴史に残る人なのかも。

19世紀ロンドン、謎の怪人を追った短編ですが、不遇な環境に生きながら真っ当に育った娘がこんなセリフを言います。

「きれいな花を咲かせる人は孤独な時を耐えなければいけない」

娘が母から受け継いだ言葉で、彼女が真っ当な理由が伺える気がします。
と同時にーー本作を読んだとき、体調を崩し、それを医師以外の誰に相談できるでもなく、でも、この娘の言葉と出会って、励まされたんですね、「そうだ、後に花を咲かすために今は孤独に耐えるのだ」と。

藤田先生ずるいよ。
絵だけではなく、セリフまで格好いいんだもの。

 

(初出・シミルボン)

2017年7月24日 (月)

ヘミングウェイ「何を見ても何かを思いだす」

装丁の美しさに購入した一冊でした。
表題作は息子との哀愁ある記憶を記した好短編、味わいは苦め、でしょうか。

それよりも、詩的なタイトルを、最近気がつくと呟いているのです。

カフェの店内から雨が地面を打つ外を眺め、その中を若い学生の集団が歩いていきます。
ふと、自分もああいう一団の中に居た、と「何かを思い出す」のです。

スズメが地面をつついていて、ふと子供の頃に飼っていたインコはどうして窓から逃げてしまったのだろう、あんなに仲良くやっていたのに、と「思い出す」のです。

かつて惚れ合った男性の写真を見て、ふと彼の表情・態度を「思い出す」ことが難しくなり、何か痛みに似たものが胸を駆けて、ほんとうは、惚れ合ってなんかいなかったのではないか、と写真をしまってしまいました、引き出しの奥に。

45歳。まだ全然ひよっこですけど、同時に、このタイトルの意味を身をもって知る年齢にもなったのですね。
今は、痛みや苦みに近い何かを思い出すけれど、いつか、それらをすべて甘く受け止められる日が来るでしょうか。

 

(初出・シミルボン)

2017年7月23日 (日)

カクヨムよろしくお願いします。

「コウタとアキラ」はじめ、カクヨムで長いのから短いのまで色々読めますー。
ご一読いただけると幸いです。
カクヨム 樋口のページ



いま純愛物を書いていて非常に難儀し、思うように進まないので、ブログ感覚で書けるエッセイも同時に書いています。
おもしろい物になったらいいですねえ。



バディ9月号を献本して頂き、小玉オサムさんのお作が切ないというか、人生のほろ苦さがあったというか、胸に来るものがありました。

2017年7月22日 (土)

津村記久子「ワーカーズダイジェスト」と映画「ムーンライト」

ネタバレします、ご注意を



こちらシミルボンですよね、すいません、本を紹介する場と重々承知しつつ、アカデミー賞の映画、「ムーンライト」が素晴らしかったのでご紹介させてください。
あと盛大にネタバレするので、未見の方はご注意を。

スラムのある街で、母の手一つで育てられるいじめられっ子のシャロン。
黒人の同級生にいじめられるのは、彼が「オカマっぽい」から。ゲイだから。

いじめはハイスクールに進んでも続き、それにより怪我を負ったシャロンは、「助けたい」という学校の関係者に、「知らない癖に」と吐き捨てます。

貧困や依存、壊れた家庭環境――真っ昼間から道に座り込んで酒盛りをする人たちが挙げる怒声・喚き声・情緒の不安定さ、酒なのかクスリなのか包丁を持って歩く人、依存症や機能不全家族が風呂場のカビみたいにはびこるという事がどういう事なのか--いま挙げた例は僕の体験ですが――ご存じない方は型通りのサポートを施そうとし、そのとき「オカマ」と呼ばれる悲しみや、未来に何一つ理想を描けない、描くためのモデルケースがない現実は、どこかに放置されてしまいます。
サポートが、サポートとして機能しない。

そういう状況をサバイブしなければならない繊細なシャロンの気持ちが、おこがましいけれど、分かる気がしました。
そう、彼は、自分だ、そう感じた方は僕だけではないように思います。

ドラッグの売人のフアンとその妻に助けられながら成長するシャロン。
フアンは善良な男ですが同時に人の人生を台なしにするドラッグで生計を立てており、その矛盾を描いているところに深みを感じるし、きっと、リアルなのでしょう(アメリカに行ったことないですが)。

母は愛していると言いながらシャロンからクスリを買うカネをむしり取っていきます。

シャロンがずっと愛したケヴィンだって、ムショ帰りで低所得の料理人。

この映画に出てくる人は、善良でありたいと願いつつ、失敗した人たちばかり。
でも、シャロンは――。

人は、人を信じられなくなったとき希望を失い、同時に絶望へ堕ちるのかもしれません。
シャロンも絶望の淵ギリギリに堕ちかけていたし、また麻薬の売人になりほとんど堕ちていたのかもしれません。

それでも、他人のフアン夫妻から愛情を受け取っていたから。
麻薬の更生施設に入ったのか、己を「クズ」と認めた母から、たぶん、やっと、愛情を示されたから。「私みたいにならないで」、と。
何より、初恋の男と月明かりの下でキスをし触れ合った記憶があったから。
彼は絶望に片足を突っ込みながら、溺れずに済んだのだと思います。

そしてラストシーン。
もう触れ合うことはないと諦めていた初恋の男と肌を触れ合わせ、ううん、触れ合ったのは孤独だった二つの魂。
孤独なのは、好きな人を好きとすら言えない状況で育ったから。

一度は絶望した人が、「生まれ生きてきた歓び」をつかみ取るために立ち上がる映画だと僕は感じ、同時に、「こういうラストシーン」を書きたくて、僕は小説を書いているのかもしれません。

以上、「ムーンライト」のレビューを反則として書きました。
それで、同時期に読んでいたのが津村記久子さんの「ワーカーズ・ダイジェスト」で。

津村さんは、映画やお笑い芸人やバンドや、本作で固有名詞をバンバン出しておられて、「ミュージック・ブレス・ユー」でもそうだったし、それで、津村さんは「ムーンライト」お好きじゃないかなあ、と勝手に思ったんです。
いつかお作に、「ムーンライト」が出てきても変じゃないな、って。

で、チェーン系のカレー店のカレーライスのライス部分に添えられたミントの葉を水に入れると爽やか、というエピソードが簡潔に書かれて、このディテール、ミントの香りを嗅いだよう。
やっぱり津村さんのお作、好きだなあと思いまして。

本作の主人公は会社員のアラサーの男女二人、仕事でくたびれて、日常で微妙に元気を削られる嫌なことも多く、仮に100年後に人類が生き残っていて現代日本の労働環境を検証したら「クレイジー」のひと言で片づけると思うんですけど、「ムーンライト」のシャロンとは違う形だけど、彼・彼女もサバイブしてるんですよね。

でもラスト、ほっこり温かい気持ちになれて、帯に「会社員、必読! 疲れてるのは、あんたが悪いんやない。」とありますが、真にその通り、お薦めしたい。
のですが、睡眠時間やメシ食う時間すら満足に確保できない会社員の方々に、本書を読む時間……あるかしらん。

 

(初出・シミルボン)

2017年7月21日 (金)

どうして西村賢太は車谷長吉の悪口を言ったのだろう。

ご覧になった方も多いと思うんですけど、西村賢太さんがテレビで佐伯一麦さんと車谷長吉、私小説に縁の深いお二人の悪口を言っていて。
作家、特に西村さんみたいなタイプが作家と喧嘩するのは、僕みたいに古い文学観を持った人間には楽しいことです。

それで、佐伯さんの悪口を言うのは分かるんです、男前だし。
作風が、穏健派の上林暁や八木義徳みたいで、破滅型の葛西善蔵系の西村さんと相容れないものが有りそうと思います。

でも、西村さんが、ちょうきっつあんの悪口を言うのは、ちと解せなくて。
テレビでは、江戸っ子の自分からすると文学に命をかけるとか恥ずかしくって野暮、みたいなことを語っていて(うろ覚えなので細かいニュアンスは違うかも知れません)、分かるような、分からないような。

でも、最近車谷長吉の作品を読んで思ったのは、氏が「底辺」と呼ぶ仕事、底辺じゃないですよね。相変わらず面白いんですけど。
なんだろ・・・幸田文が置屋で働いてその体験を名作「流れる」にしたみたいに、実態は知らないんですけど、どこかエリートが取材として働いている趣が、あるような、ないような。
それ以前に料理人、立派なお仕事じゃないですか!

で、西村賢太さんの芥川賞受賞作「苦役列車」で30~40キロの冷凍タコだかイカだかをパレットに積む単純労働をしていたけど、それを続けていた西村さんにしたら、ちょうきっつあんの言う底辺は、底辺ではなかっただろうな、と思います。
余談ながら、僕も30~40キロの荷の積み下ろしのバイトを30代の頃やりました。三日で逃げました。
だってキツイんですもの。
でも、もっと辛いお仕事ってあるんでしょうね、世の中には。

更に余談ですが、東海地方限定の深夜番組だったのかな?
お酒を飲んで放談する番組で、西村賢太さん、ここにはとても書けないマジセクハラ発言してゲストの女性タレントさんに本意気で「最っ低!!」と怒られていましたね。
んでお笑い芸人さんにフォローされて。

そんな西村賢太さんの小説が僕は好きです。
変な犯罪で捕まったりしませんように。

(初出・シミルボン)

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